恥ずかしい音源 | comino Records
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恥ずかしい音源

1月31日に執り行われた『KC10 大人の夜のビッグバンドブルース〜第二夜』。 弊ブログにも記したとおり、ライブ開始直後のメンバー紹介の際、テナーの上野クンがわざわざ録音機材の準備をしたのにも関わらず、結局録音に失敗していたことがmixiコメントを通じて判明(録音機材の不具合が原因の模様)。 さらにリーダーの下田さんのコメントでは当日のバンド音源はいっさい残っていないという。
あら〜、それはイタイっすね〜。ミュージシャンたるもの、やっぱり自分のプレイやアレンジなんかを、後から再確認したいですからね。 判ります。 ボクなんかみたいなアマチュアミュージシャンだってそう思いますから(いつもガックリするだけだけど(涙))。
一方、筆者も高音質版 “勝手にPV” 制作(と、個人用のブートレッグ制作(汗))のため、愛機 EDIROL R-09 でライブの様子を録音していたのであるが、こちらは “録音” というコトに関しては何ら問題なかった。 必然的な流れとして、リーダーの下田さん(と、カンザスシティバンド “メカニカル関係担当” も兼任する上野クン)から、可能であれば筆者が録音した音源が欲しいという旨の連絡が入ったワケである。
ところがこの音源。 これまたかなーりイタイ感じで収録されているのである。 というのも、既報の通り11人の御一行様は0次会で十分エンジンが暖まった状態でライブ観戦しており、録音機材である R-09 はツアーメンバーの中でも雄叫び音圧の高い、POCOちゃん、しゃーちゃん、boogie66ちゃん、そして筆者の席のど真ん中に設置せざるを得なかったからである。
結果的に、雄叫び、笑い声、曲の解説、鼻歌などの “雑音” が盛大に録音されており、自分で聞いてもかなーり恥ずかしい音源になってしまったのだ。(要するに酔っぱらい集団の大騒ぎ(汗)) この一部はYouTubeにアップした『濡れマンボ』を観ていただければ容易に判るであろう(不本意ながら…)。
まぁ、ある意味 “臨場感溢れる音源” とも言えなくはないのだが、むしろ『雄叫びがメインで、その向こうで演奏が聞こえる』的な音なんである。 そんなワケで、ライブのセットリストの確認後は “封印” しようと思っていたのだ。
そこにきて、当のカンザスシティーバンドのリーダーからのリクエストである。 これはなんとかせねばなるまい(汗)。 というワケで可能な限りマスタリング(修正)を試みてみた。
先ずは下の波形を見ていただきたい。 “A”の幅(振幅)が示すのは演奏の音量。これに対して “B” および “C” の波形、これは『POCOちゃんの雄叫び』である。 コムズカしいコトを言わなくとも、いかに “雑音” が盛大に録音されているかは一目瞭然であろう(汗)。(逆に言えば、それだけライブそのものが盛り上がったというコトである)
“B” の波形の方が大きく見えるのは、POCOちゃんが R-09 の左側に着席していたからである。 ステレオ感満点の大迫力でPOCOちゃんの雄叫びが盛大に録音されているのだ(笑) しかも、このような波形は何カ所もある。 やはりこのままで下田さんに納品するわけにはいかんだろう(筆者が発した “雑音” も似たようなもんだし(汗))。
トにもカクにも雄叫びの対策である。 これに有効なのは、以前『愛のあるマスタリング』でも紹介した、小生が愛用している波形エディタ=『BIAS Peak』の持つ『Gain Envelope』機能だ。 上記の雄叫び部分を “選択” してこの機能を開くと、以下のように雄叫びがクローズアップされる。
さてここで、上図の橙色矢印が示す白色の線(音量の変化を表す)をマウスで操作して、出来うる限り自然な感じに雄叫びの部分だけ音量を下げるのである。 手拍子と違い、雄叫びは、ある程度 “時間” がある。 だから、あまり極端に音量を抑えてしまうと、肝心な演奏の音量も下がってしまうので注意が必要だ。 何回も試行錯誤を繰り返し、試聴しながら以下のように音量の変化を決定する。
この音圧の変化を元波形に適用すると、下図に示す様な波形となる。 先に上げた元波形に比べ、雄叫びがだいぶ抑えられたのがお判りであろう。 これでもやや演奏音量よりも大きいめではあるが、これ以上 “雄叫び音圧” を抑えてしまうと不自然な感じになってしまうのだ。 ギリギリ許せる範囲なんである。
さて、このような作業を全ての雄叫びに適用していくワケである。 例によってヒジョーに根性のいる作業である。 同時に “気になる手拍子” の対策も行う。
ところで、筆者と同じように(おなじ機材で)録音している方から「cominoさんの録音した音源は、音量も大きいし、クリアな感じだけど、なんか録音の仕方にコツがあるの?」的な質問を受けることがわりとある。
誤解を承知で敢えて言い切ってしまえば、録音したままの音源は、デジタルカメラで言えば『RAWデータ』。 このままの状態ではダメなのだ。 適切に音圧を上げたり、音質を調整して初めてブートレッグとして完成するのである。 上記の “雄叫び補正” は下ごしらえが済んだ段階であり、ここから改めてマスタリング作業を行うのだ。 気が向いたら、そのうち筆者の研究したテクニック(って、ほどでもないけど)を詳しく記事にしてみようかな? と思っているのだが、今回はごくカンタンに説明してみよう。
小生はMacユーザーなので、Macを買うと黙って付いてくるソフトウェア『GarageBand』を使用している。 多少機能に制限はあるものの、この手の音源のマスタリングには必要充分であり、余計なオカネがかからないのが良い。 むしろ、ある程度制限のある道具を使用した方が、いろいろと工夫を凝らす必要があり、返ってクリエイティブな作業ができるモノなのである。
そんなワケで、上記の通り下ごしらえが済んだ波形を GarageBand に取り込んで、以下に示す様な処理を行う(処理は右側の橙色矢印が示す通り、上から下に適用される)。
A 先ずは『コンプレッサー』でザックリと音圧を稼ぐ。 というか、このコンプレッサーという機能。 地味な機能であるが、もっとも奥が深く設定が難しい機能なのだ。 プロの音響マンでも『コンプレッサーがキチンと使えるようになって一人前』なんである。
B これはバックグラウンドノイズ=例えばエアコンの動作音等を除去する為の機能である。 あまり極端に適用すると不自然になるため、ほんのりと適用するのがコツである。 まぁ、無くてもいいかもしれない(汗)。
C これも『コンプレッサーの一種』であるが、周波数を指定して音圧を制限することができる『マルチバンドコンプレッサー』というモノである。 ふつう、ライブハウスでは 150Hz〜250Hzあたりの低い周波数帯にピークがある(ハコによって周波数帯は異なる)。 カンタンに言ってしまうと『なんとなく低音が “もこもこ” した、こもった感じ』の音として録音されてしまう。 その周波数帯を狙って音圧を抑制するコトにより、“もこもこした感じ”(ブーミーな感じ)を取り払うワケである(ただ、適用し過ぎると、低音=ベースが聞こえなくなって、スカスカになってしまうので調整は難しい)。
D これはリバーブ。残響である。 しかし残響を施すのが目的ではなく、上記までに適用した音圧の変化による不自然な感じを少しでも滑らかに聞こえるように使用するワケである。 ほんの少し適用するだけで、これが案外効果があるのだ。
E いわゆる『パラメトリックイコライザー』。 ここで最終的な音質を調整する。 ヘットフォンやスピーカー等、聴く装置によっても聞こえ方が異なるため、最小公倍数的な音質を決定する。 調整は必要最小限にしないと、わざとらしくなってしまうので注意が必要である。
F 最終的に『リミッタ』を適用して音量がオーバーしないようにガードする。
っとまぁ、こんな感じである。最終的に以下の様な波形となる。
一番最初にお見せした波形に比べると “幅” が広くなり、均一になっているのがお判りであろう。これで聴感上十分な音圧で演奏が楽しめる音源となる ……… のだが、まぁ今回の場合『雄叫びがメインで、その向こうで演奏が聞こえる』レベルから『演奏と雄叫びがだいたい同じ音圧で聞こえる』レベルになった程度である(涙)。
というワケで、こうして制作した音源をCDに焼き、浅草HUBの定例ライブに行ってきた。

もちろん、いつもの通りライブは最高! しかも今回、きっじーさん、mikiさん等、カンザスシティーバンドの常連さんとも仲良くなれたのがタイヘンにウレシかった。 音楽を通じて友達が増えるってのはステキなことですなぁ。
そして、幕間に “納品の儀”。 上記の通り、いろいろと手は尽くしてみたものの “恥ずかしい音源” である事には変わらない。 筆者、酔いに任せていろいろと言い訳しまくりであった(汗)。
なにはともあれ、納品を済ませて一安心。 あとはライブを楽しむだけだぜ〜。

しっかし、なんだかコムズカしい内容のネタ…というか言い訳がましいネタになってしまった(汗)。
そんなワケで最後にきっじーさんが撮影した『When You're Smiling』を貼付けておきます。いい感じ!(ちなみに、きっじーさんのリクエスト。ナイス!)
Posted: 02/27/10
Last updated: 03/02/10